巫女従軍の事実は屡見えて居る。離島方面では、島々の小ぜり合ひに、かうした神意の戦争が、近年までくり返されて居た事と思はれる。

     四 結婚――女の名

「妻覓《ツマヽ》ぎ」と言ふ古語は、一口に言へば求婚である。厳格に見れば、妻探しと言ふことになる。此と似た用語例にある語は「よばふ」である。竹取物語の時代になると、既に後世風な聯想のあつた事が見えて居るが、やはり「呼ぶ」を語原として居るのである。大きな声をあげて物を言ふことである。つまり「なのる」と言ふのと、同義語なのである。名誉ある敵手の出現を望む武士の、戦場で自ら氏名を宣する形式を言ふ事になつて了うたが、古くは、もつとなまめかしいものであつた。
人の名は秘密であつた。男の名も、ずつと古くは幾通りも設けて置いて、どれが本名だか訣らなくしたものがあつた。大汝[#(ノ)]命などの名の一部分の意義は、大名持即多数の名称所有者の意であつて、名誉ある名「大名《オホナ》」を持つと言ふ意ではない様だ。事実色々の名を持つた神である。名を人格の一部と見て、本名を知れば、呪咀なども自在に行ふ事が出来るものと見たところから、なるべく名を周知させぬ様に
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