から成立の始めから、宗教に関係して居る。神々の色彩を持たない事実などの、後世に伝はりやうはあるべき筈がないのだ。並みの女のやうに見えて居る女性の伝説も、よく見て行くと、きつと皆神事に与つた女性の、神事以外の生活をとり扱うて居るのであつた。事実に於て、我々が溯れる限りの古代に実在した女性の生活は、一生涯或はある期間は、必巫女として費されて来たものと見てよい。して見れば、古代史に見えた女性の事蹟に、宗教の匂ひの豊かな理由も知れる事である。女として神事に与らなかつた者はなく、神事に関係せなかつた女の身の上が、物語の上に伝誦せられる訣がなかつたのである。
私は所謂有史以後奈良朝以前の日本人を、万葉人《マンネフビト》と言ひ慣して来た。万葉集は略《ほぼ》、日本民族が国家意識を出しかけた時代から、其観念の確立した頃までの人々の内生活の記録とも見るべきものである。此期間の人々を、精神生活の方面から見た時の呼び名として、恰好なものと信じて居る。古事記・日本紀・風土記の記述は、万葉人の生活並びに、若干は、其以前の時代の外生活に触れて居る。茲に万葉集を註釈とし、更に今一つ生きた註釈を利用する便宜が与へられて
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