財を持ち出す処が描いてある。年越しの夜に、仮面を著けた人が訪問すると言ふ形は、必民間伝承から得たものに違ひない。
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面には、かづく[#「かづく」に傍線]或はかぶる[#「かぶる」に傍線]と言ふ語が、用語例になつて居るのは、古代の面が頭上から顔を掩うて居た事を示して居る。
能楽で見ても、面をつけるのは、神・精霊の外は女である。女は大抵の場合、神憑きと一つものと思はれる狂女である。能役者が、直面《ヒタオモテ》では女がつとめられないと言ふ理由の外に、神のよりまし[#「よりまし」に傍線]なる為に同格に扱うたと考へる事が出来るかも知れぬ。太子と能楽との伝説を離れて、静かに考へて見ると、翁などの原型として、簡単な仮面に頭を包んだ田遊び[#「田遊び」に傍線]の舞ひぶりが、空想せられるのである。当麻寺の菩薩|練道《レンダウ》の如きも、在来の神祭りに降臨する神々の仮面姿が、裏打ちになつて居るのではあるまいか。
古事記に残つて居る文章のなかで、叙事詩の姿を留めたものを択りわけて見ると、抒情部分のうた[#「うた」に傍線]ばかりでなく、其中に叙事部分のかたり[#「かたり」に傍線]に属する
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