(巻五)には見えて居るが、其外にもなかつたとは言へない。高麗・日本の人々が入唐すると、必、張文成の門に行つて、書き物を請ひ受けて帰つた(唐書)と言ふことは、宋玉一派の爛熟した楚辞類は元より、神仙秘伝・宮廷隠事の伝説を記録した稗史類を顧みなかつたと言ふ事にはならぬ。寧、其方面の書籍が、沢山輸入せられた事を裏書きするものと言へると思ふ。其上に帰化人が生きた儘の伝承を将来してゐる。而も、世界の民族は、民間伝承の上にある点までの一致を持たないものがない。日本と支那との間にも、驚くばかりの類似が、其頃段々発見せられて来た。飛鳥の末・藤原の宮時代の人々の心に、先進国の伝承と一致すると言ふ事が、どんなに晴れやかな気持ちをさせた事であらう。



底本:「折口信夫全集 1」中央公論社
   1995(平成7)年2月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 国文学篇」大岡山書店
   1929(昭和4)年4月25日発行
初出:「日光 第一巻第三・五・七号」
   1924(大正13)年6、8、10月
※底本の題名の下に書かれている「大正十三年六・八・十月「日光」第一巻第三・五・七号」はファイル末の「初出」欄に移しました
入力:野口英司、門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年5月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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