りわけ対話風になつた部分を唱へる様になつたと見ればよい。呪言の一番神秘な部分は、斎部氏が口誦する様になつて行つた。天《アマ》つ祝詞《ノリト》・天つ奇護言《クスシイハヒゴト》と称するもの――かなり変改を経たものがある――で、斎部祝詞に俤《おもかげ》を止めてゐるのは、其為である。
中臣祝詞の中でも、天つ祝詞又は、中臣の太詔戸《フトノリト》と言はれてゐる部分である。此は祓へを課する時の呪言であつて、さうした場合にも古代論理から、呪言の副演を行ふ斎部は、呪言神の群行[#「群行」に傍線]の下員であつて、みこともち[#「みこともち」に傍線](御言持者)であつた、主神役なる中臣が此を口誦し、自ら威《イツ》の手で――これまた、神の代理だが、万葉集巻六の「すめら我がいつのみ手もち……」と言ふ歌の、天子の御手同時に神の威力のある手ともなると言ふ考へと同じく――祓への大事の中心行事を執り行うた――大祓方式の中の、中臣神主自ら行ふ部分――のである。斎部宿禰の為事が、段々卜部其他の手に移つて行つて、その伝承の呪言も軽く視られるやうになつてから、天神授与の由緒は称へながら、斎部祝詞は、神秘を守る事が出来なくなつた
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