全くは、呪言以来の呪力を失うた、単なる説話詩とは見られては居なかつた。やはり神秘の力は、此を唱へると目醒めて来るものとせられて居たのである。叙事詩に於て、ことば[#「ことば」に傍線]の部分が、威力の源と考へられたのは、呪言以来とは言へ、地の文の宗教的価値減退に対して、其短い抒情部分に、精粋の集まるものと見られたのは、尤《もつとも》なことである。
呪言の中のことば[#「ことば」に傍線]は叙事詩の抒情部分を発生させたが、其自身は後に固定して短い呪文或は諺《コトワザ》となつたものが多かつた様である。叙事詩の中の抒情部分は、其威力の信仰から、其成立事情の似た事件に対して呪力を発揮するものとして、地の文から分離して謳《うた》はれる様になつて行つた。此が、物語から歌の独立する経路であると共に、遥かに創作詩の時代を促す原動力となつたのである。此を宮廷生活で言へば、何|振《ブリ》・何|歌《ウタ》など言ふ大歌《オホウタ》(宮廷詩)を游離する様になつたのである。宮廷詩の起原が、呪文式効果を願ふ処にあつて、其舞踊を伴うた理由も知れるであらう。
呪言の総名が古くは、よごと[#「よごと」に傍線]であつたのに対し
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