が、後世の宴會の風から測つた誤解である。正客即尊者は拜むべきものであつた。其故、手を拍つて拜したのである。
二つの引用文は天子に關したものであるが、拍手禮拜の儀は、天子に限らない。うたげ[#「うたげ」に傍線]は「拍ち上げ」の融合なることは、まづ疑ひはない。併し、宴はじまつて後の手拍子を斥《サ》すのでなく、宴に先だつての禮拜を言ふ語であつたのである。其が饗宴全體を現し、遂には饗宴の主要部と考へられる樣になつた酒宴を示す樣に移つて來たものと思はれる。後に言ふ朝覲行幸・おめでたごと[#「おめでたごと」に傍線]と同じ系統の壻入りをうちゃげ[#「うちゃげ」に傍線](宛て字|宇茶下《ウチヤゲ》)と美濃國で稱へてゐたと言ふのは、疑ひもなく拍上《ウタ》げである。併し、壻入りの宴會を斥《サ》すものでなく、壻が舅を禮拜する義から出てゐるのは疑ひがない。
後世、饗宴の風、其宴席の爲に正客を設け、名望ある長老を迎へる事を誇りとする樣になつたが、古代には尊者の爲の饗宴であつて、饗宴の爲の正客ではなかつたのである。だから、尊者は、饗宴の唯一の對象であり、中心であつた。他の列座の客人・宴席の飾り物・食膳の樣子・酒席
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