\しい形式を履まねばならぬことになつてゐた。「大臣大饗」は、此適切な例である。新しく右大臣に任ぜられた人が、先輩なる現左大臣を正客として、他の公卿を招く饗宴であるが、此は公家生活の上に於ける非常に重大な行事とせられて居た。だから、正客なる左大臣の一擧一動は、滿座の公卿の注視の的となつた。新大臣にとつては、單に次には自分の行はねばならぬ儀式の手本を見とつて置く爲の目的から、故らに行うたやうな形があつた。先輩大臣は、其だけに故實を糺して、先例を遺して置かうと言ふ氣ぐみを持つてゐた。
二 門入り
凡、大饗と名のつく饗宴には、すべて此正客をば「尊者」と稱へて居た。壽・徳・福を備へた長老を「尊者」と言ふと説明して來て居るが、違ふ樣である。私は此には二とほりの考へを持つて居る。一つはまれびと[#「まれびと」に傍線]の直譯とするのである。今一つは寺院生活の用語を應用したものと見るのである。食堂《ジキダウ》の正席は必、空座なのが常である。此は、尊者の座席として、あけて置くのである。尊者は、賓頭盧《ビンヅル》尊者の略號なのである。だから、食事を主とする饗宴の正客を尊者と稱すると考へるのも
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