代の新室のほかひ[#「ほかひ」に傍線]は、必しも嚴格に、新築の建物を對象としては居ない樣である。其が、舊室《フルムロ》をほかふ[#「ほかふ」に傍線]場合も屡ある樣である。舊室に對しても、新室《ニヒムロ》と呼ぶことの出來た理由があるのだと思ふ。半永住的の建て物を造り出す樣になつた前に、毎年、新室を拵へた時代があることが推せられる。屋は苫であり、壁は竪薦《タツゴモ》であつた。我々の國の文獻から溯れる限りの祖先生活には、岩窟住居の痕は見えない。唯一種――後世には形を止めなくなつた――の神社建築形式に、岩窟を利用するものがあつたゞけである。が、むろ[#「むろ」に傍線]と言ふ語は、尠くとも穴を意味するものである。底と周壁とに堅固な地盤を擇んだことだけは證明が出來る。穴が段々淺くなつて、屋外に比べては屋内が掘り凹められてゐる冬期の作業場として、寒國の農村で毎年新しく作るむろ[#「むろ」に傍線]・あなぐら[#「あなぐら」に傍線]の形に進んで居たのが、我が國文獻時代の地方に尚存したむろ[#「むろ」に傍線]であらう。牀をかいたものは、此と對立でとの[#「との」に傍線]と言はれた。だから、むろ[#「むろ」
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