がり」に傍線]の大主《ウフヌシ》と言ふのが、一名儀來の大主《ウフヌシ》なのである。あがり[#「あがり」に傍線]は東である。今實在の島である大東島《ウフアガリジマ》は、實は舊制廢止以後までも、空想の島であつた。更に古くは、本島東岸の久高《クタカ》・津堅《ツケン》の二島の如きも、樂土として容易に近づき難い處と考へられた時代もあつた樣である。
琉球神道の上のにらいかない[#「にらいかない」に傍線]は光明的な淨土である。にも拘らず、多少の暗影の伴うて居るのは、何故であらう。今一度、八重山群島の民間傳承から話をほぐし[#「ほぐし」に傍点]て行きたい。

      六 祖靈の群行

村々の多くは、今も盂蘭盆に、祖先の靈を迎へて居る。此をあんがまあ[#「あんがまあ」に傍線]と言ふ。考位《ヲトコカタ》の祖先の代表を謂ふ大主前《オシユマイ》・妣位《ヲンナカタ》の代表と傳へる祖母《アツパア》と言ふ一對の老人が中心になつて、眷屬の精靈を大勢引き連れて、盆の月夜のまつ白な光の下を練り出して來る。どこから來るとも訣らないが、墓地から來るとは言はぬらしい。小濱島では、大《オホ》やまと[#「やまと」に傍線]から來
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