れ、それから簑笠を神のしるしとする樣になり、此を著ることが神格を得る所以だと思ふ樣になつたのである。簑笠で表された神と、襲《オスヒ》・※[#「ころもへん+畢」、第4水準2−88−32]《チハヤ》を以て示された神との、二種の信仰對象があつて、次第に前者は神祕の色彩を薄めて來たものと思はれる。神社・邸内神は後者で表されたものである。後には、簑よりも笠を主な目じるしとする樣になつて行つた。此は然るべきことで、顏を蓋ふといふ方にばかり、注意が傾いて行つたので、神事と笠との關係は、極めて深いものであつた。
大晦日・節分・小正月・立春などに、農村の家々を訪れた樣々のまれびと[#「まれびと」に傍線]は、皆、簑笠姿を原則として居た。夜の暗闇まぎれに來て、家の門から直にひき還す者が、此服裝を略する事になり、漸く神としての資格を忘れる樣になつたのである。近世に於ては、春・冬の交替に當つておとづれる者を、神だと知らなくなつて了うた。或地方では一種の妖怪と感じ、又或地方では祝言を唱へる人間としか考へなくなつた。其にも二通りあつて、一つは、若い衆でなければ、子ども仲間の年中行事の一部と見た。他は、專門の祝言職に
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