ゐる。形成の上から言へば、確かに正しい。けれども、内容――古代人の持つてゐた用語例――は、此語原の含蓄を擴げて見なくては、釋かれないものがある。
我が國の古代、まれ[#「まれ」に傍線]の用語例には、「稀」又は「rare」の如く、半否定は含まれては居なかつた。江戸期の戲作類にすら、まれ男[#「まれ男」に傍線]など言ふ用法はあるのに、當時の學者既に「珍客」の意と見て、一種の誇張修辭と感じて居た。
うづ[#「うづ」に傍線]は尊貴であつて、珍重せられるものゝ義を含む語根であるが、まれ[#「まれ」に傍線]は數量・度數に於て、更に少いことを示す同義語である。單に少いばかりでなく、唯一・孤獨などの義が第一のものではあるまいか。「あだなりと名にこそたてれ、櫻花、年にまれ[#「まれ」に傍線]なる人も待ちけり(古今集)」など言ふ表現は、平安初期の創意ではあるまい。
まれびと[#「まれびと」に傍線]の内容の弛んで居た時代に拘らず、此まれ[#「まれ」に傍線]には「唯一」と「尊重」との意義が見えてゐる。「年に」と言ふ語がある爲に、此まれ[#「まれ」に傍線]は、つきつめた範圍に狹められて、一囘きりの意になるのであ
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