番大事な言葉と言ふのはどの言葉か、と言はれると、必ず、昔の人は、天つ罪と言ふ言葉を挙げたと思ひます。近頃、筧と言ふ人が出て来て、「かむながらの道」と言ふ事を唱へまして、惟神《カムナガラ》と言ふ言葉が、非常に重大性重要性をおびて来ましたけれども、もつと天つ罪・国つ罪と言ふ言葉の方が、もとは皆よく知つてゐたでせう。中臣祓――大祓とも言ひますが――のうちに這入つてゐる、有力な件りでありますから。言葉の形から見ますと、天の罪・地上の罪と言ふ事になるんですけれども、私が若い時分に、柳田先生の所に通ひ始めた――通ひ始めるは可笑しいですね。通学ではないんですから(笑声)――その時分に、先生から問題として出されまして、「天つ罪と言ふものを君はどう思ふか」と言うてをられた事を覚えてをります。国つ罪と言ふ事が、地上の罪と言ふ言葉でございますならば、天つ罪と言ふ事は、天上の神の罪と言ふ事にならなければならない訣ですけれども、さう言ふ与へられた問題が、何時迄も釈《ト》けないで、憂鬱に頭にたまつてゐるんですね。人間はやはり、さう言ふ憂鬱さ、それが釈けないと言ふ憂鬱さがあつて、それが突然何かの機会に突当つて、湧然
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