霊が不思議な働きをすると言ふ信仰は、それではそれ以前はなかつたかと言ふと、全然なかつたとは言ひ切る事は出来ません。けれども、我々が言霊の幸ふと言ふ言葉に依つて、考へる通りの信仰と言ふものはなかつたのです。言霊の幸ふと言ふ言葉に依つて、限界をつけ得る一つの信仰と言ふものは、奈良朝前、それ程遠くない時代に固定し、構成せられて、それがだん/\持伝へられて来たのです。而もそれが、だん/\意味が変化して行きます。ある時代の学者になりますと、言霊のさきはふ国と言ふ言葉を、日本の国は霊妙不可思議な言葉が行はれて居る国である、と解釈し、その言葉を讃美した言葉、日本の国の言葉がすぐれてゐて美しい事を賞める言葉だ、と言ふ風に解釈してをります。だから、かう言ふ日本には盛んに歌謡が起つたとか、こんなに立派な短歌と言ふやうな又長歌と言ふやうなものが出来た、と言ふ風に考へられてゐるのですけれども、この考へは、さう言ふ考へに至るまでに、自然と、変化を辿つてゐるのかも知れません。併し、我々の見るところでは、さうした学者の誤解が、ずつと後になつて、起つて来たのだと思ひます。
言霊の幸ふと言つたのと殆ど、同じ時代に、色々
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