文学的になつて参ると思ひます。譬へば、それ等の階級を、――或は階級以外のものでもですが――言葉だけで申しますと、宮廷方言、貴族方言と言ふ様な言ひ方で、考へていゝ訣です。そしてそれをひつくるめて、女房方言と言ふものがあります。或はその他には、武官の階級であれば武官方言、寺家の階級であれば寺家方言と言ふものが出来て来るでせう。けれども、その中の隠者と言ふものは、方言を持つてゐません。つまり、生活を持たず、社会を持たないものであつて、隠者と言ふ者は、何時でも、色々な社会にくつゝいて行くだけです。貴族の家へも行けば、武家の家へも行く。そしてそれ自身の大きな社会と言ふものを持たないのですから、隠者の方言と言ふものはない。隠者と言ふものが持つてゐたのは、文学語だけです。それで、世捨人が持つてゐるものと、武家の方言と言ふものに就いては、簡単に申されません。武家は日本国中に散在してをつたのですから、その武家をば、一遍に武家方言と言ふやうな風に、ひつくるめて申すことは出来ません。大体、国語をば階級に嵌めて見ましても、さう言ふ風に嵌つて行くのです。併し、尚、国語の伝承せられて行くその過程らしいものが釈ければ私は満足するのですが。
四 諺の発生及びその伝承
民間伝承の方で取扱ふ言語伝承と言ふものは、色々あります。色々あるのですけれども、大体三つの区分があると思ひます。一つは宗教的な言葉で、まあ呪言とか呪詞とか言つておいていゝでせう。それから、まう一つは言語遊戯。言葉の遊戯です。それから、まう一つは方言です。併し、この他にまう一つ重要なものがあります。つまり、文学的な口頭伝承です。口の上で伝承せられるもの、それが、口の上ばかりで伝承せられてゐることもあり、筆記せられて、文章になつてゐるものもあります。併し、私は多くの場合、これを言語遊戯として、同じ項目に入れて考へてをります。つまり、呪言と、言語遊戯と――その中へ非文学と名前をつけてゐるものを入れてゐます。文学にして文学に非ざるものと言ふ訣で、非文学と言ふ名前をつけてをります。――それから方言と、大体この三つですが、今これに就いて、詳しく申してゐるのも大変なことですから、極く、断片的な事を申しませう。
一体、我々は遊戯と言ふものをば、非常に昔とは変つて考へる様になつて来てゐます。遊戯と言ふものは、昔、宗教的な儀礼をば練習すると
前へ
次へ
全45ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング