時代からの引き続きとして、血統の断絶の為に、家の口頭系図の伝承の絶える事を防ぐ為から出て、後は個人の存在・事業などの忘却せられない様に傾いた子代部・名代部など言ふ団体には、恐らく新しい意味の叙事詩及び系図の伝承といふ重大な職分があつた事と思ふ。子代・名代の民を立てる事は、即一つの村を作る事である。敵の多い国家よりも、村の永続を考へた時代の考へから続いてゐたのであつた。
其村の太祖と考へられて行くはずの人の伝記及び系図を、村の開立の時に与へて伝承させた事を考へなければ、子部・名部の設立があまりにはかない企てと思はれる。
やまとたける[#「やまとたける」に傍線]の為に建部《タケルベ》を、木梨軽太子の為に軽部《カルベ》を立てた類は、死者の執念を開いて祟らぬ様に慰めたのであらう。此等は特殊なものである。やまとたける[#「やまとたける」に傍線]には子孫があつた。これなどは、此例から説明せねば訣らぬ。やまとたける[#「やまとたける」に傍線]・木梨軽太子に関聯した叙事詩の断篇の宮廷詩及び、叙事詩から出たと信じられる伝説の多いのは、建部の民の村、軽部の民の村の新叙事詩が、諸方に撒布して、宮廷にまで入つたのではなからうか。かう言ふ風に考へると、磐之媛その他の伝記の長い人々には、さうした子部名部が在つて、新作の叙事詩を伝承して、前期王朝の中期飛鳥藤原時代には、古叙事詩と同様視せられる程になつて居たのだと思ふ。



底本:「折口信夫全集 4」中央公論社
   1995(平成7)年5月10日初版発行
※底本の題名の下には、「草稿」の表記があります。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年10月31日作成
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