ないから、第一次的第二次的、いづれにせよ、此団体組織の備つて居た土地に就いてばかり論じる。が、自然国中全体に此組織が行はれて居たものと言つた表し方をとることがあるかも知れない。けれどもどこまでも、此を持たなかつた村国は問題の外になつて居るものと見てほしい。
語部の事を説く前に、叙事詩の発生を言ふ必要がある。
「よごと」の章に述べた様に、よごと[#「よごと」に傍線]の中に、祝福風の発想と、圧服式の表現とがある。とこよ[#「とこよ」に傍線]のまれびと[#「まれびと」に傍線]が名のり[#「名のり」に傍線]によつて、土地の精霊の名のり[#「名のり」に傍線]を促す形の一つ前の姿は、まれびと[#「まれびと」に傍線]自身の種姓《スジヤウ》を名のつて地霊を脅かす方法と、地霊の種姓を、こちらから暴露する為方とがあつた。種姓|明《アカ》しが呪言としての威力発揮の一つの手段であつたのが、段々分化して種姓明しの口頭文章の内容が、歴史観念を邑々の人の心に栽ゑつける。而も呪言としての利用尠くなつた文章にも、やはり勿論神言の威力は存在したので、叙事詩が純粋の歴史伝承ととり扱はれる様になつた時代はあつたか、どうか断言出来ない。まれびと[#「まれびと」に傍線]及び其眷属の物語、地霊の来歴などが、時を経て段々長い形の物になつて来た。地霊が恣に発言する時期が来ると、地霊自身の名のつた種姓明しの文章が、限りなく殖えて来る。さうして、地霊が、神社の神として祀られる前期王朝になると、地霊の託宣自身が、まれびと[#「まれびと」に傍線]又は天つ神の呪言・種姓明しとおなじ威力を持つものとせられる様になつた様である。かうなると、種姓明しの託宣が殖えて来る。祀られない神が新しく祀りを享けようとし、祟り神が「何処の神が何故に祟つたか」など説明する場合が多くなつたからである。
一方、初めに戻つて、歴史観念が出て来ると、邑・家・土地の歴史を知りたく思ふ邑人の意思が神人に反影して、神話にさうした方面が多くなつて来る。邑の来歴は、邑君の家の歴史と一つであり、土地についた説明も、其に関聯して託宣に表れて来る。而も家の歴史の中、又一つの大切の部分が派生して来る。其は、邑君の家の系統を伝へる口頭の系図である。
神託宣から発した歴史には系図も含まれて共に伝承せられたのが、後には此だけを分離して口誦する様にもなつた。
その口頭歴史伝承は、
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