であつた。後には、此人達の身分は、次第に低くなつたが、元は、その高い人ほど、厳重な物忌みをしたのであつた。今でも、大嘗祭に当つては、天皇が一番、お苦しみになるのである。三度も、風呂をお召しになる。其時小忌が、天皇の御介錯を申し上げる。小忌は、宮廷で一番、高い位置にある人で、今ならば、総理大臣とも言ふべき人である。
廻立殿《クワイリフデン》の湯は、絶対の神秘で訣らないが、ともかく、女が其役をする。此時に、神秘が行はれるのである。宮殿のは、平安朝まで行はれてゐて、此方は、或点訣るところがある。昔は、宮廷では、天皇が一番、苦しんでゐられた。一年を通じて、殆絶えることなしに続く祭りを、御親祭になるお苦しみは、非常なものであつた。天皇に次いでは、小忌――上達部《カンダチメ》がさうであつた。
上達部とは通称であつて、官名ではない。極自由に用ゐられてゐた為に、平安朝になつて、女の文章が、通用語を記すやうになつてから、記録せられた語である。平安朝の記録に、はじめて現れたと言ふ理由で、此語が、奈良朝には行はれなかつたとするのは、早計であつて、奈良朝時代既に、行はれてゐた語である。当時は、記録の必要を見な
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