代にあつては、神であり、神の続きと見てゐる。
此処で、天子の意味を考へて見たい。
天皇は、天つ神の御言を、此土地にもつて来られたお方である。昔は、言葉によつて、物事が変化する、と言ふ言霊《コトダマ》の信仰をもつてゐた。言霊は単語、又は一音にあるやうに、古く神道家は解いてゐたが、文章或は、その固定した句に於て、はじめてある事実である。文章に、霊妙不可思議な力がある、と言ふ意味からして、其が作用すると考へ、更に、神の言葉に力があるとし、今度は語の中に威力が内在してゐる、と考へた。其を言霊と言ひ、其威力の発揚することを、言霊のさきはふ[#「さきはふ」に傍線](又は、さちはふ[#「さちはふ」に傍線])と言うた。
天皇は、天上の神の御言詔《ミコト》を伝達して、其土地の人、及び、魂に命令せられる。其間は、天神と同じになられるのである。
上使が「上意なれば座に直る」などゝ言ふのも、此と同じことである。天皇には、神聖な瞬間が続いてゐるのだから、神であるが、元は、御言詔持《ミコトモ》ちであらせられた。天神の御言詔どほり、其土地に実現なさるのである。
其が後には、天皇の為に、更に御言詔伝達《ミコトモチ》を考へて来た。かうして、実権は次第に、低い位の者の手に下つて行き、武家時代には所謂、下剋上――易経の語を借りて――と言ふ事が、現れて来る。此は、上位の人と、下の者とが、同格になる時があつたのである。
天皇は、天つ神とは、別なお方であるが、同格になられる事があるので、我々の信仰では、天皇と、天つ神とを分つことが、出来なくなつてゐる。ところが、天皇と神との間に、仲だちといふものを考へて来た。信仰上の儀礼で、介添への女がゐる。天皇は、瞬間々々に神となられるが、其より更に、神の近くに生活し、直接に、神の意志を聴くものである。
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┌a'[#「a'」は縦中横]
a┤↑
└b
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aは天つ神。a'[#「a'」は縦中横]は其御言詔持ちなる地上の神。bは介添への女性。a'[#「a'」は縦中横]に仕へねばならない尊貴族、最高位にいらつしやる方に当るbと言ふものは、信仰的にはaの妻であるが、現実的には、a'[#「a'」は縦中横]の妻の形をとる。祭りの時も、此形式をとるものである。
宮廷で、神を祭るのは天皇で、神来臨は、信仰の上のことであつて、神主が即、神であつた。今の神
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