……行かなくに。」「……うらもとなくも。」などが、其を示してゐる。此等も皆あり[#「あり」に傍点]をつければ、完全な叙述部として立つことが出来る。此まゝでも、事実において、叙述能力を持つてゐる。唯うたてあり[#「うたてあり」に傍線]の場合、語尾をつけて、副詞から形容詞(あり[#「あり」に傍線]を複合した)を構成したのである。よくあり[#「よくあり」に傍線]・こひしくあり[#「こひしくあり」に傍線]を類推の基礎にしてゐる。さうして単に叙述部ばかりに止らず、自由な動詞状形容詞として、連体形も出来て来た。さうして、完全に悲観・嫌厭の情を専らに言ふことになつた。此頃から一方音韻分化したうたゝ[#「うたゝ」に傍線]の形が、うたゝあり[#「うたゝあり」に傍線]ともなり、悲感を表すと共に、積極感をも示すことになつたが、此は訓読専門の語となつて行つたらしく、専らうたゝ[#「うたゝ」に傍線]と言ふ形の死語として、今日までも残つた。
うたて[#「うたて」に傍線]・うたてあり[#「うたてあり」に傍線]が並び行はれてゐる間に、うたてく・うたてき・うたてしなど言ふ不整形な語も認められるやうになつた。さうして、近
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