言ふ動詞で名詞についたもの、下が敬語的屈折を作るものと言ふ風に理会せられる。昨非今是まことに面目ないが、単に朝令暮改と笑殺されてもさし支へない。私は、今敢へて上の「し」を敬相、下の「し」を、尚多くの隈を含めながら、熟語を構成する一つの形式的要素[#「熟語を構成する一つの形式的要素」に傍点]と見ようと考へてゐる。
枕詞と言うても、いろ/\あるが大体に、枕詞と感じるだけの約束がないでもない。ある一つの約束は、一つの固定した格を作つて、外の語と紛れぬ様になつてゐることだ。こゝには其について、一々述べないが、この場合の問題の「を」なども其だ。「けごろもを……はる[#「はる」に傍点]冬」「みはかしを……つるぎ……」「みこゝろを……よしぬ」(イ)[#「(イ)」は縦中横]の如き、近代の人の文法的調節によつて感じる所の、御心よ……み佩刀よ……褻衣よ……など言ふ形は、確かに万葉時代にも其通り考へてゐた時期はあつたらしく、其と共に、既に此「を」を以て目的格の助辞と見るに傾いたらしい例は、ぼつ/\ある。「わぎもこを……いざみの山(はやみ浜……)」「いもがてを……とろしの池」「たちばなを……もりべのさと」(ロ
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