「をとこじもの」は壮夫霊《ヲトコジモノ》によつて、招魂《コヒ》をすると言ふ呪詞的な用語例があつたものと見る。意識が変じて、畏ければ、畏しとして、壮夫なれば、壮夫としてなど言ふ風に感じられ、其が更に、新しい民間語原を呼び起したものと見える。併し其径路にあるものとして、遷却祟神祭祝詞・出雲国造神賀詞を見るがよい。物質・霊魂を比喩或は象徴としてゐることが知れる。同時に、「……の霊の表現としての」、「……の霊の寓りなる」と言ふ古代信仰が見えて居る。
○
私は、いろ/\の方角から形容詞語尾「し」の発生を説かうとした。さうして尚言ひ残した事が多い。最心残りなのは、どうしても「し」が語根の一部と見られるものゝ多いこと、亦もつと大切な語根の性質の論を決定した基礎の上に、此論は立つ筈だつたのだ。其が、毫も出来て居ない。其上未練を添へれば、此論文の、主題とした「し」の領格語尾としての成立をすら、存分に言ひ立てる事の出来ないで了うた事である。
唯、私の学問を長く慈愛の目で瞻続けて来て下された金沢先生は、かうした論文からも、書かれてゐない結論を見出して下さることゝ、信じもし、甘えもして、文をと
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