語には、語根の中の一部と言ふより、語根その物と見られるのがあることだ。
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おし  をし
もし  けたし
いまし  しまし
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神代巻以下まだ、神代の匂ひの失せない時代の記事を見ると、押・忍或は圧の字を上に据ゑた熟字に逢著することが多い。
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○天押帯日子命 押阪連 押媛 押木玉蘰
○忍熊王 天忍人 忍穂耳命
○天圧神
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此等の、沢山の「おし」の中、唯天圧神の外、殆例を見ない程、「おし」は「大《オホ》」或は「大きし」に通じるのである。此事は、宣長も古事記伝に論じてゐる。が、此に対照して考へると、「をし」の意義は稍明瞭である。古事記・日本紀の古訓などには、此「をし」を形容詞扱ひにして、「をしき」と言ふ活用を出してゐるが、此はうけ取れない。「愛」の義にとるべきではなくて、あるものは悉く「惜」の側に入るものだ。「をし(惜)」「をしむ」から還元して「をし」を「愛し」と感じることは、決して古義を溯源することにならない。たとへば、万葉古義以後、ほゞ通説の形をとつた「三山歌」の、「高山波雲根火雄男志等」の上の雄を目
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