もなく、例証の豊富な語である。結局語その物ばかりに就いて言へば、語根よし[#「よし」に傍線]と言ふ形に復して、用ゐられる訣なのだ。
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はしけやし  (はしけよし〈紀〉)
はしきやし  (はしきよし〈万葉〉)
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かう言ふ例になると、大体において、「け」と言ふ音の過程を含んだ方が古くて、「き」と言ふ音に直つてゐる方が新しい意識を持つてゐるものと考へられる。此とても、古い語形と新しく調節せられたものとが並用せられる例である。つまり、「はしけ」或は「はしき」と謂つた連体感覚を含んだ語に、「やし」「よし」がついたので、語根に其がついた時代から見ると、稍新しいと見ねばならぬ。此とても、枕詞の一つとして考へられてゐるものだが、其かゝる所は、妹・君などから延長して、家・国・里などにもかゝり、更に幾句かを隔てゝもかゝる様になつた。其上、鍾愛・未練・執着の心持ちをこめて言ふ時の一種の独立語の様な用途をさへ開いて来た。併し乍ら其は、内容の上の問題で、形式から言ふと元来、「はしき……妹・君・家」など言ふ接続ぐあひのはつきり訣つてゐたものであつた。たとへば、「はしき
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