では決してないのである。
かうした鬼を扱ふ方法を、昔の人々はよく知つてゐた。あるじ[#「あるじ」に傍線]と言ふ語は、まれびと[#「まれびと」に傍線]即、常世神に対する馳走を意味する。日本の宴会には後世まで、古代の神祭りの儀式のなごりが、沢山遺つてゐる。武家の間で馳走の時、おに[#「おに」に傍線]と言ふ名の役が出た事も、かうして見て初めて意味がよく訣る。
まれびと[#「まれびと」に傍線]なる鬼が来た時には、出来る限りの款待をして、悦んで帰つて行つてもらふ。此場合、神或は鬼の去るに対しては、なごり惜しい様子をして送り出す。即、村々に取つては、よい神ではあるが、長く滞在されては困るからである。だから、次回に来るまで、再、戻つて来ない様にするのだ。かうした神の観念、鬼の考へが、天狗にも同様に変化して行つたのは、田楽に見える処である。



底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
   1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第二」大岡山書店
   1930(昭和5)年6月20日発行
※底本の題名の下に書かれている「大正十五年、三田史学会例会講演筆記」は省きました。
※訓点送り仮名は、底本では、本文中に小書き右寄せになっています。
※平仮名のルビは校訂者がつけたものである旨が、底本の凡例に記載されています。
※「次第」と「次弟」の混在は底本通りにしました。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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