たのであつた。其間の物忌みが厳重であつた。此が所謂|真床襲衾《マドコオフスマ》を引き被《カヾフ》つて居られる時である。此物忌みに堪へなかつた方々に、幾柱かの廃太子がある。
万古不変の大倭根子天皇の御資格は、不死・不滅であつて、崩御は聖なる御資格から申せば、一種の中休みに過ぎないので、片方には中の一寝入りから目覚めたといふ形で、日つぎのみ子[#「日つぎのみ子」に傍線]が、日のみ子[#「日のみ子」に傍線]としてみあれ[#「みあれ」に傍線]をせられる。即、長い物忌みの後に、斎川水を浴びて、こゝに次の天皇として出現せられるのである。だから、常世の変若水は、禊ぎの水であり、産湯でもあり、同時に甦生の水にも役立つたのである。其重大なる儀式の一種であるみぶ[#「みぶ」に傍線]を奉仕したのが、後世由来不明となつた、節折《ヨヲ》りに奉仕する中臣女[#「中臣女」に白丸傍点]の起原である。
みあれひく[#「みあれひく」に傍点]賀茂の社の祭りも、此信仰から出てゐる。稚雷の神の出現の日に、毎年賀茂川を斎川として、稚雷神の用ゐ始めた後、諸人此水に浴したのがみあれまつり[#「みあれまつり」に傍線]の本義である。だか
前へ 次へ
全11ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング