は、一ひき輓けば千僧供養万僧供養になるべし」と書いた木札を首にかけさせて、擁護人《ダンナ》の出来るまでと言ふので、小法師に引かせて、海道を上らせた。此続きがすぐに、照手姫車引きになるのである。
国書刊行会本の「をぐりの判官」は、此段が著しくもつれてゐるやうである。古い語り物の正本としては、此位の粗漏矛盾はありがちの事ではあるが、肝腎の屍の顛末の前後不揃なのはをかしい。これは、小栗土葬、家来火葬ときめてよい。十王の本縁も其でよくわかるのである。唯、骸がどうなつて居たのか、判然せぬ点がある。
正本によると
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此は扨措き、藤沢の上人は、うわのが原に、鳶鴉か[#「か」に「マヽ」の注記]わらふ比立ちよつて見給ふに、古のをぐりの塚二つに割れ……
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とあるのだから、小栗の屍が残つて居たと見えるが、鳶鴉に目をつけて見ると「鳶鴉が騒ぐ故[#「故」に白丸傍点]」位の意味で、元の屍は収拾する事の出来ぬ程に、四散して居たものとも見られる理由がある。古の小栗の塚と言ふよりも、古の塚の他人の骸を仮りて、魂魄を入れた話を合理化したものと見てもよい。
其は、小栗の蘇生が尋
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