、或は其樹てた木を錦木と言うたのか、問題であるが、それは結婚の為ではなく、私は外から来るある人が、土産として、樹てゝ行つたことの、一つの説明なのだらうと思ふ。御竈木の古い形を見たのは、三・信境の山間、遠州の山奥辺の風俗であつた。三河の奥で、初春行はれる祭りに「花祭り」といふのがある。昔は、前年の霜月に行はれた。即、春のとり越し祭りである。此祭りの意味から言ふと、来年の村の生活は此とほりだ、と言ふことを、山人が見せてくれるのであつた。其時、山人の持つて来る山苞には色々あつた。更に、其が種々に分れて来た。鬼木とも言ひ、にう木[#「にう木」に傍線](丹生木《ニフギ》か)とも言ふ木の外に、雑多なものを持つて来る。
花祭りと、にう木[#「にう木」に傍線]が門に樹てられる事とは、別の時ではあるが、今は正月の初めと小正月前後に当るから、近づいて来たのである。中世では、にう木[#「にう木」に傍線]の樹てられる初春と、花祭りの行はれる霜月とは、間があいて居たけれども、もつと古い時代には、にう木[#「にう木」に傍線]の樹てられる時と、花祭りの時とは同じ時で、其が次第に岐れて来たのであらうと推定出来る。

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