と言ふ意味である。遠くから、其人に災のない様に、気をつけて居る事が見送るである。「立たりし」は「立てりし」と同じことである。家人が此松と同様にぐにやり[#「ぐにやり」に傍点]として、私に災がない様に、と見守つて立つて居るのが、眼にあざやかに浮ぶと言ふ位の意である。
後世東国では、家人の誰かゞ遠く旅をして居る家では、家の前に祠を建てゝ、其人の帰る迄置いた。近世の伊勢参りの如きも此形である。魂を留める為に、家の門に木を切つて立てゝ置いた。此動作がはやす[#「はやす」に傍線]である。かうして解くと、万葉集の中で、今日まで解けなかつた歌が、大分解けて来る。
この様に、木の花を以て祝福したり、将来の事を占つて見たり、魂ふり[#「魂ふり」に傍点]をする習慣が沢山あるのである。これで、私は、四季の花を中心として、神事に関係ある花の事は、大体述べたつもりである。



底本:「折口信夫全集 2」中央公論社
   1995(平成7)年3月10日初版発行
※底本の題名の下に「昭和三年六月、国学院大学郷土研究会例会講演筆記」の記載あり。
※底本では「訓点送り仮名」と注記されている文字は本文中に小書き右寄せになっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年12月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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