下から手を出して、いたづらをしたものは、大抵、狸になつて了うてゐるが、猿や猫とする例も少くない。だが、厠の様式にも、歴史があつた。其変化に伴うて、適当な動物が、入り替つて来た。だが、考へると、やはり水溜りだつたので、河童の通ひ路は通《トホ》つてゐたのである。毛だらけの手が出て、臀べたを撫でたゞけでは、よく考へると、何の為にしたのか知れない。示威運動と見るのが、普通であらうが、人を嫌ふ廃屋の妖怪には、少しとてつ[#「とてつ」に傍点]もない動作である。何も仰山に、厠が語義どほりの川屋で、股の間から、川水の見えた古代に遡らずとも、説くことが出来よう。だが若し、さう言ふ事が許されるなら、丹塗りの矢に化成して、処女の川屋の下に流れ寄つて、其恥ぢ処に射当つたと言ふ、第一代の国母誕生の由来も、考へ直さねばならぬ。厠の下から人をかまふ[#「かまふ」に傍点]目的が、単にしりこ[#「しりこ」に傍点]を抜くばかりでなかつたのかも知れない。
[#四つん這いの河童の図(fig18395_03.png)入る]
雪隠の下の河童の覘《ねら》ふものは、しりこだま[#「しりこだま」に傍点]であつた。何月何日、水で死ぬと予
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