ました。古代のおに[#「おに」に傍線]は、後世の悪鬼羅刹などでなく、巨人と言ふだけの意義でした。大方、赤また[#「赤また」に傍線]・黒また[#「黒また」に傍線]など言ふ先島《サキジマ》のまれびと[#「まれびと」に傍線]と、似た扮装をしたものであつたのでせう。田楽には、鬼や天狗がつきものになつてゐたらしいのですが、猿楽では、翁の柔和な姿になつてゐます。だが、「谷行《タニカウ》」の様な、山入りの生活を明らかに見せるものがあり、又、天狗も「第六天」や「鞍馬天狗」や「善界《ゼガイ》」など、数へきれない程あるでせう。田楽には天狗の印象があるだけで、今残つた種目からは窺はれません。其に比べて数から言へば、猿楽は、天狗舞を一分科とするほどです。先達・新達の区別も、宿老《トネ》と若者との関係です。山人生活のかたみ[#「かたみ」に傍線]だと言へないかも知れませんが、ともかくも考へに置かねばなりませぬ。
天狗が出産のあら血を嫌ふ事は、柳田先生が、古く「天狗、山の神」説に述べられました。山の神、或は山人生活の行儀・禁忌などが、その儘伝つて居るではありませんか。だから、修験道は、山人の間に※[#「酉+慍のつく
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