に、江戸町いづみや・三丁目つたやなど言ふ高張提灯の見える処から考へても、場面は吉原である。介六と新兵衛とは、白酒荷の朸《あふご》と見える物に為込んだ刀の両端を引きあうてゐる。此は両人とも立役で、敵役の別にあるのを殺さう、と先を争ふ処か、或は一人がはやり、一人が制する処とも見られる。両人いづれも敵持ちでないことは、介六役者が団十郎で、白酒売りを生島新五郎が勤めたのでも知れる。両立役心を合せて、敵を討たうとするものと見れば、直ちに後の「由縁江戸桜」の五郎・十郎に変つて行く径路は頷かれる。
尤、第二回目の助六なる「式例和曾我」以下の物は、助六に、曾我なり、愛護なりが這入つて居るので、多くの場合、三つの筋が一つに絡んで居た様である。思ふに二回・三回頃のものは、曾我を含んで来たのが、段々元の愛護をも呼び戻して、雑居することになつたのであらう。「愛護桜」に、何で縁もゆかりもない愛護が割り込んで来たか。わたしは、正徳三年が江戸の山王日枝神社の記念とすべき年であつた、といふ様な理由があるのだらう、と想像せられる。
此狂言、伝へられた如く、仇討ち物とすれば、敵は誰を殺したのか。二条蔵人か。愛護か。後の※
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