しい。穴生の姥の事を叙べて「もゝのにこう[#「もゝのにこう」に傍線]が之を見て」など言うたのも、其間の消息を洩してゐるのであらう。だから後半は、殆ど伝説其儘で、前半は創作と迄言へずとも、古浄瑠璃の型を追うて書いたものだ、と言ひきつて差支へないであらう。
愛護若伝説を輿地誌略の作者の友人は「秋の夜の長物語」の飜案と考へて居たらしく、志田義秀氏は長物語から糸を引いた、隅田川伝説の一つと考へられたらしい(郷土研究一の三)。長物語と此民譚とに通じる点は、
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梅若(長物語)愛護二人ながら、公家の子である点(い)。叡山に関係ある点(ろ)。桂海律師と細工と(は)。叡山なる人に逢ふ為、住家を出ること(に)。唐崎の松が、主要な背景になつてゐること(ほ)。入水(へ)。衣掛け(と)
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の数ヶ処で、似て居ない点もある。其は、
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肝腎な「松のうけひ」と「桃・麻の呪ひ」が、此にはあつて、彼には見えぬ事(ち)。同性の愛が中心問題になつてゐるのと、ゐぬのと(り)。継子虐待の有無(ぬ)。此は本地物で、彼は発心物語の一種とも言ふべきこと(る)。彼は山門・
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