つたと見られる。さうして、早稲を炊いで進めたらしい。家中の人は、家の巫女なる処女《ヲトメ》――処女の生活をある期間してゐた主婦又は氏女――を残して、別屋――新嘗屋となつた――又は屋敷の庭に出てゐる。かうして迎へられた神は、一夜を其巫女と共にする。遊女の古語だ、と謂はれた一夜づま[#「一夜づま」に傍線]は、かうした神秘の夜の神として来る神人及び家の処女との間に言ふ語《ことば》であつたのだ。
宮廷の神嘗祭りは、諸国の走りの穂を召した風が固定して、早稲を以てする事になつたので、古くは一度きりであつたのかも知れぬ。だが、文献で考へられる範囲では、早稲は神の為で、神嘗用であり、おきつ・み・とし[#「おきつ・み・とし」に傍線]の初穂は、祈年祭・月次祭りに与る社々・皇親の尊長者の霊にも御料の外を頒たれる事になつてゐた。神嘗祭りの原義は、今年の稲作の前兆たる「ほ」を得て、祝福する穂祭りの変形であつて、刈り上げ祭りよりも早くからあつたものとは言はれない。此穂祭りが神社に盛んに行はれ、刈り上げ祭りは、一家の冬の行事となつたのであるらしい。
秋祭りの太鼓をめあてに、細道を行くと、落し水は堰路《ヰデ》にたぶつ
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