の歌である。此木を鈿《ウズ》に挿して、正月の祝福をしたのであつた。此は、山人のするやまかげ[#「やまかげ」に傍線]・やまかづら[#「やまかづら」に傍線]の一つだつたのである。ほよ[#「ほよ」に傍線]ともふゆ[#「ふゆ」に傍線]とも言うたからの懸け詞で、なづ[#「なづ」に傍線]と撫づ[#「撫づ」に傍線]とをかけたと等しい。ふゆ[#「ふゆ」に傍線]に、殖ゆ[#「殖ゆ」に傍線]は勿論触る[#「触る」に傍線]を兼ねて、密着《フル》の意をも持つてゐるのだ。鎮魂式には、外来の威霊が新しい力で、身につき直すと考へた。其が、展開して、幾つに分裂《フヤ》しても本の威力は減少せない、と言ふ信仰が出来た。
鎮魂式に先だつ祓への後に、旧霊魂の穢れをうつした衣を、祓への人々に与へられた。此風から出て、此衣についたものを穢れと見ないで、分裂した魂と考へる様になつた。だから、平安朝には、歳暮に衣配《キヌクバ》りの風が行はれた。春衣を与へると言ふのは、後の理会で、魂を頒ち与へるつもりだつたのである。即みたまのふゆ[#「みたまのふゆ」に傍線]の信仰である。この場合のふゆ[#「ふゆ」に傍線]は殖ゆなどの動詞ではなく、語根
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