こで字下げ終わり]
此が、本の歌になつた天皇の作である。これにも、語の幻の重りあうたのを喜んで居られるのが見える。山人を仙人にとりなして「命を延べてくれるやまびと[#「やまびと」に傍線]の住む山村へ行つた時に、やまびと[#「やまびと」に傍線]が出て来て、おれに授けた、山の贈り物だ。これが」と言ひ出された興味は、今でも訣る。
高市・磯城の野に都のあつた間は、穴師山の神人が来、奈良へ遷つてからは、山村から来る事になつたらしい。この山人が、次第に空想化して、山の神・山の精霊・山の怪物と感じられる様にもなつたのだ。穴師の神人は山人でありながら、諸国に布教して歩いた。それを見ると、里と交通の絶えた者どもでもなかつたのである。唯、市日と、宮廷・豪家の祓へに臨む時だけは、山蘰を捲き、恐らく、からだ中も、山の草木で掩うてゐた事があるのだらう。
山城京になると、山人は、日吉から来たのらしい。三輪を圧へる穴師が、三輪山の上にあつた様に、加茂を制する為の山の神は、高く聳える日吉の神でなければならなかつた。だから、はじめは、山人も比叡の神人の役であつたらう。而も、此が媚び仕へることによつて、神慮を柔げるものと
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