少年少女を要する祭りが、村を出ぬ幼い住民の間に、課せられた時代の行事は、いつまでも、おなじ姿では居られなかつた。村を離れて、遠く住む者の多くなるに従うて、其祭りの時だけは、故郷に還るといふ風を生じて来た。だから、閻魔に詣で、或は地蔵に賽して後、生家を訪ふといふ事は、実は忘れて後の重複であつた。
かう言ふ風に、一つの年中行事も、決して、単一な起原から出てゐないのである。又更に我々は、藪入りと、奉公人出替りとにも、一続きの聯絡を見る事が出来るのである。藪入りを一つの解放と考へてゐる側から見れば、日は違ふだけで、出替りも亦、同様の基礎を持つてゐると思はれる。だから、この方面にも、又別の旧信仰の参加を見るのである。
一陽の来復する時を以て、従来の契約・関係を、全部忘却して了ふと言ふ古風があつた。此為に、一年を二部分に分けて考へる様になつて、盆からも、新しい社会生活がはじまるもの、とする考へ方を生じた。此信仰を、遠い昔から、わりあひに後までも繋いだのは、大祓の儀式の存してゐた為であつた。此によつて、新な状態の社会、旧関係を全然脱却した世間が現れると信じる様な不思議が、正面から肯定せられてゐた。出替りは、此意義において、半面の起原は明らかになる。
私は別の時に、大祓を説いて、以上の年中行事の元の俤を、今少しなりとも、明らかにしたいと考へてゐる。



底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
   1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第二」大岡山書店
   1930(昭和5)年6月20日発行
初出:「民俗学 第一巻第一号」
   1929(昭和4年)年7月
※底本の題名の下に書かれている「昭和四年七月「民俗学」第一巻第一号」はファイル末の「初出」欄に移しました。
※底本では「訓点送り仮名」と注記されている文字は「天孫又問曰、其於[#(ニ)][#二]秀起浪穂之上《ホダタルナミノホノウヘ》[#一]、起《タテ》[#二]八尋《ヤヒロ》殿[#(ヲ)][#一]而、手玉玲瓏織※[#「糸+壬」、第3水準1−89−92]《タダマモユラニハタオル》之|少女《ヲトメ》者、是[#(ハ)]誰|之女子耶《ガヲトメゾ》。答[#(ヘテ)]曰[#(ハク)]、大山祇神之女等。大《エヲ》号[#(ヒ)][#二]磐長姫[#(ト)][#一]少《オトヲ》号[#(フ)][#二]木華開耶姫[#(
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