ことである。
更に、此頃になつて目立つて来た、もう一つの浮浪者があつた。諸方の豪族の家々の子弟のうち、総領の土地を貰ふことの出来なかつたもの、乃至は、戦争に負けて土地を奪はれたものなどが、諸国に新しい土地を求めようとして、彷徨した。此が又、前の浮浪団体に混同した。道中の便宜を得る為に、彼等の群に投じたといふやうなことがあつたのだ。後世の「武士」は、実は宛て字である。「ぶし」の語原はこれらの野ぶし[#「野ぶし」に傍線]・山ぶし[#「山ぶし」に傍線]にあるらしい。又、前の浮浪者とても、元来が、喰はんが為の毛坊主商売なのであつて見れば、利を見て、商売替へをするには、何の躊躇もなかつた。
三 野伏し・山伏し気質
彼等は、先、人里離れた山奥に根拠を据ゑ、常には、海道を上り下りして、他の豪族たちの家々にとり入り、其臣下となり、土地を貰ひなどしたのであつたが、又中には、其等の豪族にとつて替つたものなどもあつた。
彼等が、豪族にとり入つた手段には種々あるが、一体に、彼等が道中したのは、武力で歩いたのではなく、宗教を持つて歩いた。行法を以てした山伏しである。義経が奥州へ落ちる時、山伏し姿で
前へ
次へ
全31ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング