様な観を持つ事になつたらしい。
家々の氏[#(ノ)]上が寿詞を唱へる事は、其家々が邑落生活に権力を得た源を示している。神主であり、神となり得た村君の、も一つ以前の「常世神」としての生活の俤が見えるではないか。此場合、第一次の神語を唱へるのではない。天子の寿を為すために作られ、家々に伝誦せられた詞を唱へるのである。呪言に対する信仰として、神の詞と言ふ考へはまじつてゐても、大体は人作の文句と言ふ事は知つてゐたらうと思ふ。さうして唱へる人も固より神としてゞはなく、人として我が主君に奏上する意識は持つて居たに違ひない。目的はおなじでも、態度は非常に変つて来てゐる訣である。神として唱へた呪言を、人として言ふ事になるのであるから、勢ひ、文調に神秘力のある事を信じる事になる。
神の詞としての生命の呪言は、他の第一次の呪言と共に亡びてしまうてゐる。だが、普通の場合は、定期に行はれる生業の呪や、建築物の呪と同時に行ふ事が多い為と、呪言の本質として比喩表現をとる為に、錯乱した形をとつて来る。多くは家長の長命を示すと並行して建築の堅固をも祝福してゐる。又、農産・食物が比喩となつてゐるのは、生業のはじめに併せて呪せられたからである。
常世の神のなした呪言は、秘密を守り遂げて世に出ずに亡びたものが多かつた。



底本:「折口信夫全集 4」中央公論社
   1995(平成7)年5月10日初版発行
※底本の題名の下には、「草稿」の表記があります。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年10月31日作成
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