しも、其等は狂言の標準古典発音によつてゐるものともきめられぬ。
でする[#「でする」は太字] まする[#「まする」は太字]
泉鏡花は、時々その小説に新旧二様の語を使ふ者を対立させて、対立した人間の性格や、生活をある点まで、書き分けようとした。殊に硬い詞を使ふ者に、頑冥不霊な魂を与へることが、意外なほど多い。とりわけ「風流線」「続風流線」では、大山某といふ、唯一人古格な方言でおし通して物を言ふ、社会救済事業家を出してゐる。極端なほど、でえする[#「でえする」に傍線]と言ふ語を、一貫して遣ふのである。而も之に対して金沢市の有識階級の人々には、有識の標識の様に、「です」を用ゐさせて居る。此偉大な偽善家に限つて、人並みの「です」を遣はせなかつた。鏡花は、極めて醜く頑なゝ精神を表現するのに、此古風な方言を、適切なものと考へたのであらう。
我々の知つた限りでは、でいする[#「でいする」に傍線]がです[#「です」に傍線]に先立つて行はれた例を知らぬが、――相当に古い歴史を持つです[#「です」に傍点]が、明治に標準語化するまでの期間、一地方において経過したでする[#「でする」に傍線]・でいする[#「
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