う神を奉祀する神職と、何の深い念慮なき月給取りが、あるいは脅迫あるいは甘言もて強いて人民に請願書に調印せしめ、さて政府に向かっては人民合祀を好んで請願すといい、人民に向かっては政府の厳命なり、違《たが》わば入獄さすべしとて二重に詐偽を行ないながら、褒美に預かり模範吏と推称せらるるは、これ民を導くに詐《いつわ》ることをもってするものにて、詐りより生ずることは必ず堂々と真面目一直線に行ない遂げぬものなり。すでに和歌山県ごときは、一方に合祀励行中の社あると同時に、他の一方には復社を許可さるるあり。この村には一年百円を費やさざれば古社も保存を許されぬに、かの村には一年二十円内外を払うて、しかも月次幣帛料を受くる社二、三並び存置さるるあり。今では前後雑糅、県庁も処分に持て余しおるなり。かかれば到底合祀の好結果は短日月に見るを得ざる、そのうちに人心離散、神道衰頽、罪悪増長、鬱憤発昂、何とも名状すべからざるに至らんことを杞憂す。
結局神社合祀は、内、人民を堕落せしめ、外、他国人の指嘲を招く所以《ゆえん》なれば、このこといまだ全国に普及せざる今日、断然その中止を命じ、合祀励行で止むを得ず合祀せし諸社
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