三文の神林を、ことごとく一時に伐り尽させたところが、思うほどに売れず、多くは焚料《たきもの》とするか空しく白蟻を肥やして、基本金に何の加うることなき所多し。金銭のみが財産にあらず、殷紂は宝玉金銀の中に焚死し、公孫※[#「※」は「おうへん+贊」、読みは「さん」。507−13]は米穀の中に自滅せり。いかに多く積むも扱いようでたちまちなくなる、殆《あやう》きものは金銭なり。神林の樹木も神社の地面も財産なり。火事や地震の節、多大の財宝をここに持ち込み保全し得るは、すでに大倉庫、大財産なり。確固たる信心は、不動産のもっとも確かなるものたり。信心薄らぎ民に恒心なきに至らば、神社に基本金多く積むとも、いたずらに姦人の悪計を助長するのみ。要するに人民の好まぬことを押しつけて事の末たる金銭のみを標準に立て、千百年来地方人心の中点たり来たりし神社を滅却するは、地方大不繁昌の基なり。
第四に、神社合祀は国民の慰安を奪い、人情を薄うし、風俗を害することおびただし。『大阪毎日新聞』で見しに、床次《とこなみ》内務次官は神社を宗教外の物と断言し、さて神社崇敬云々と言いおる由。すでに神を奉祀して神社といい、これを崇
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