盗部に入れたるを至当とせるを参考すべし。
次に新宮には、ちょうど一昨年中村氏が議会へこのことを持ち出さぬ前にと、万事を打ち捨てて合祀を励行し、熊野の開祖|高倉下命《たかくらじのみこと》を祀れる神倉社とて、火災あるごとに国史に特書し廃朝仰せ出でられたる旧社を初め、新宮中の古社ことごとく合祀し、社地、社殿を公売せり。その極《きょく》鳥羽上皇に奉仕して熊野に来たり駐《とど》まりし女官が開きし古尼寺をすら、神社と称して公売せんとするに至れり。もっとも如何《いかが》に思わるるは、皇祖神武天皇を古く奉祀せる渡御前《わたるごぜん》の社をも合祀し、その跡地なる名高き滝を神官の私宅に取り込み、藪中の筍《たけのこ》を売り、その収入を私《わたくし》すと聞く。さてこの合祀に引き続き、この新宮の地より最多数すなわち六名の大逆徒を出し、その輩いずれも合祀の最も強く行なわれたる三重と和歌山県の産なるは、官公吏率先して破壊主義と悖逆《はいぎゃく》の例を実示せるによる、と悪評しきりなり。大逆管野某女が獄中より出せる状に、房州の某処にて石地蔵の頭を火炙《ひあぶ》りにせしが面白かりし由を記せるなど考え合わすべし。
こと
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