の飲んだ跡の水を文明人が飲むと自分らごとき蛮民になると信ずるごとく(一八九一年板、ガーネットの『土耳其《トルコ》女および風俗』二巻二一三頁)、鼠の残食を参れば鼠の性を受くると信じたのだ。
かく忌み嫌わるるもの故諸獣を神とし尊ぶ例多きも鼠を拝む例は少ない。『大英百科全書』十一板二巻動物崇拝の条にも挙げていない。吾輩知る所を以てすれば、西半球にシュー人は鼠の近類たる麝香《じゃこう》鼠を創世神の一とす(一九一六年板、スペンスの『北米|印甸人《インディアン》の鬼神誌』二七一頁)。東半球には何でも中央アジアのトルキスタン辺にシュー人と等しく鼠を利害に関せず祖霊とした崇拝が大いに行われ、上述ごとく祖神がその子たる人間を護り、祈れば福利を与え、祈らずば損害を加うと信じ、支那で鼠を子《ね》年、子《ね》の方位の獣と立つる風と、インドで毘沙門を北方の守護とする経説を融通して、ついに毘沙門の後胤と称する国王も出で来れば、鼠の助力で匈奴に大捷《たいしょう》した話も出で来たと見える。而してわが邦に行わるる大黒と鼠を合せた崇拝も、実はこの毘沙門から移ったもの多く、初め厨神だったものが軍神として武士に祈らるるに及
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