の一、二に恩を施し他は一切手厳しく扱う事もある。東インド諸島の一なるバリ島では、田を害する鼠を多く捕えて焼き殺し、ただ二疋を宥命して白布の袋に餌を入れて与え、百姓一同神のごとく拝んだ後放ち去る。ボヘミヤの某所では、百姓が通常の鼠を釈《ゆる》さず殺せど白鼠を見付くれば殺さず、窓に巣を作ってこれを畜《か》う。それが死ねばその家の福尽き常の鼠が殖えるそうだ。シリア人の畑が毛虫に犯さるれば、素女を聚《あつ》めてその内の一人を毛虫の母と定め、毛虫多い処へ伴れ行きて毛虫がここを去るから御気の毒ですと悔みを述ぶ。露国では、九月一日に蕪《かぶら》等諸菜で小さい棺《ひつぎ》を製し、蠅などの悪虫を入れ悲歎の体《てい》して埋めると。紀州などで稲の害虫ウンカを実盛《さねもり》と呼ぶ。稲虫《いなむし》の一名|稲別当《いなべっとう》、それを斎藤別当に因んで実盛《さねもり》というに及んだ由(『用捨箱』下)。この虫盛んな年は大勢|松明《たいまつ》行列して実盛様の御弔いと唱え送り出す。まず擬葬式をして虫を死絶すべき禁厭《まじない》だ。上に引いた支那で上子日に家鼠を饗して炒雑虫というを考うるに、最初この日野を焼いて野鼠蟄
前へ 次へ
全81ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング