ぬわざあり、今はさまでにはあらねど元日は民家すべて掃除をせず、『五雑俎』※[#「門<虫」、第3水準1−93−49]《びん》中の俗、年始に糞土を除かず、初五日に至りて輦《れん》して野地に至り石を取って返ると。その通り蚕室は初子の日初めて掃除したので、子の日を用ゆるは専ら鼠害を厭《よう》する意と見える。
 今村君の『朝鮮風俗集』にまたいわく、上子の日子の刻臼をつけば鼠の種尽くると称し、深夜空臼の音を聞く、昔宮中で小官吏が炬《かがり》に火を付けて大声に鼠|燻《いぶ》し鼠燻しと呼んで庭内を曳きずり廻した後、王様から穀物の煎《い》ったのを入れた袋を賜わった事が民間に伝わったものであると。これも恐らくは虫焼きと同じく支那の古俗が移ったであろう。日本でもこの風を移してこの日小松を引いて松明《たいまつ》を作り鼠を燻《ふす》べて年内の鼠害を禁じたのが子の日に小松を引いた起りで、後には鼠燻しは抜きとなり、専ら小松を栽《う》えて眺め飲み遊ぶに至ったので、その遺風として『袖中抄』の成った平安朝の末頃まで田舎で蚕室の掃き初《ぞ》め式の帚に小松を添えて鼠どもグズグズいわば燻ぶるぞと脅かしたのだ。
 フレザーの『金
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