傷つくべき牙と、自ら身を衛《まも》るべき楯を持つ。しばしば肩と脇を樹に摺り堅めて楯とすると載せ、一五七六年ロンドン版、ジェラード・レーの『武装事記』には、野猪闘わんと決心したら、左の脇を、半日間※[#「木+解」、第3水準1−86−22]樹に摺り付け堅めて、敵の牙の立たぬようにするとある由(一九二〇年、『ノーツ・エンド・キーリス』十二輯六巻二三八頁、クレメンツ氏説)。故に、彼方《かなた》の紋章を画くに、多くは材木を添えある。
ついでにいう。享保三年板|西沢一風《にしざわいっぷう》作『乱脛三本鑓《みだれはぎさんぼんやり》』六に、小鼓打ち水島小八郎、恩人に頼まれた留守中その妻を犯さんとして遂げず、丹波の猪野日村に旧知鷹安鷲太郎を尋ねる。鷲太郎山より帰り小八郎を見て、京へ登りしよりこの方《かた》文一本くれぬ不届者《ふとどきもの》、面談せば存分いいて面の皮を剥《は》ぐべしと思いしが、向うししには矢も立たず、門脇の姥《うば》にも用というを知らぬ人でもなし、のふずも大方直る年、まず何として来るぞと問う。アラビヤ人の常諺に、信を守る義士は雄鶏の勇、牝鶏の察、獅子の心、狐の狡、※[#「けものへん+胃」
前へ
次へ
全90ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング