動物学』十巻二七九頁)。腰上に臍《へそ》に似た特異の腺ある故ジコチレス(二凹の義)の学名が附けられ、須川賢久氏の『具氏博物学』などには臍猪の訳名を用いた。その上牙は直ぐに下に向い出で、猪属の上牙が外や上に曲り出るに異なるなり(『大英百科全書』十一板二十一巻三二頁)。南米の土人これを飼いて豕とし温和なること羊のごとくなる。身長三フィートばかりの小獣でその牙短小といえども至って尖《とが》り、かつ両刃あり怖ろしい傷を付ける。五十|乃至《ないし》数百匹群を成して夜行し、昼は木洞中に退いて押し合いおり、最後に入ったものが番兵の役を勤む。行く時は堅陣を作り、牡まず行き牝は子を伴れて随う。敵に遇わば共同して突き当る。その猛勢に猟士また虎(ジャグアル)も辟易して木に上りこれを避くる由(フンボルトの『旅行自談』ボーンス文庫本二巻二六九頁、ウッドの『動物画譜』巻一)。
『淵鑑類函』四三六に服虔曰く、猪性触れ突く、人、故に猪突|※[#「豬のへん+希」、第3水準1−92−23]勇《きゆう》というと。いわゆるイノシシ武者で、※[#「豬のへん+希」、第3水準1−92−23]は南楚地方で猪を呼ぶ名だ。『※[#「竹か
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