昔話』に載った灰蒔き爺の話に鴈を捉うる処あるのは、件の『雑宝蔵経』から花咲爺の話を拵え上げた痕跡と惟《おも》う。
桃太郎の話は主として支那で鬼が桃を怖るるという信念、それから「神代巻」の弉尊が桃実を投げて醜女を却《しりぞ》けた譚などに拠る由は古人も言い、また『民俗』一年一報、柴田常恵君の説に、田中善立氏は福建にあった内、支那にも非凡の男児が桃から生まれる話あるを聞いた由でその話を出し居る。それらは別件として、ここにはただ桃太郎が鬼が島を伐つに犬を伴れ行ったという類話が南洋にもある事を述べよう。タヒチ島のヒロは塩の神で、好んで硬い石に穴を掘る。かつて禁界を標示せる樹木を引き抜いて守衛二人を殺し、巨鬼に囚われた一素女を救い、また多くの犬と勇士を率いて一船に打ち乗り、虹の神の赤帯を求めて島々を尋ね、毎夜海底の妖怪鬼魅と闘う。ある時ヒロ窟中に眠れるに乗じ闇の神来って彼を滅ぼさんとす。一犬たちまち吠えて主人を寤《さ》まし、ヒロ起きて衆敵を平らぐ。ヒロの舟と柁《かじ》、並びにかの犬化して山と石になり、その島に現存すというのだ(一八七二年ライプチヒ版ワイツおよびゲルラントの『未開民史』六巻二九〇頁
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