攷証今昔物語』に、この譚を『日本法華験記』と『元亨釈書《げんこうしゃくしょ》』に漢文で載ったのを本語の後に付けあるが、出処も類話も出していない。全く上に引いた『賢愚因縁経』の瓢箪から駒でなくて麦を出した話から転出されたので、瓢から出た穀物を国中に施したなども両譚相似いる。さて『金光明最勝王経』と『妙法蓮華経』の名に因って光勝、法蓮てふ二僧を拵えたのだ。
『諸経要集』四七に『譬喩経』を引いていわく、長者の門に一狗ありて常に人を噛み誰も入り得ず、聡明な一比丘が往くとちょうど狗《いぬ》が外に出で臥して知らず、比丘入るを得て食を乞うと長者が食を設けた。狗われ寝た間に比丘を入れたは残念だ。彼れ長者が供えた物を一人食ったら出て来る所を噛み殺して腹中の美膳を食おう、我に食を分ったら赦《ゆる》そうと思うた。比丘犬の心を知って食を分ち与うると、狗喜んで慈心を生じ、比丘に向ってその足を舐《ねぶ》った。後《のち》また門外に臥すとかつて噛まれた人がその頭を斫《き》って殺した。それからその長者の子に生まれたが短命で死に、また他の長者の子に生まれて出家したと。仏教は因果|輪廻《りんね》を説き慈愛を貴ぶ故、狗が一時
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